ロシア人や旧ソ連圏、スラヴ人の姓と父称の仕組み

 日本においては、姓は男女同形である。佐藤氏が男性であれ女性であれ、姓は「佐藤」である。また、「氏名」と言う時は本名を指すことが多いように、「名前は氏名から成り立つものである」という共通概念も存在する。しかし、世界には男女で異なる姓の語尾を持つ文化圏も存在する上に、名前が氏名以外の物から構成される仕組みを採用している民族や国家も存在する。特にスラブ系民族や旧ソビエト連邦構成国の人々にその特徴を見出すことができる。

 ロシア人の姓の多くは、男性形が‐ov、 -ev、- in、女性形が更に語尾-aを付けたものになる。例えば、ソ連最後の書記長ゴルバチョフ(Gorbachev)氏の妻は「ゴルバチョワ(Gorbacheva)」である。メドベージェフ元大統領とメドべージェワ選手は同じ姓である。

 アルメニア、ジョージア、トルコ(テュルク)系などの旧ソビエト連邦構成国出身者の中にも、ロシア人と同様の語尾を持つ姓が存在する。その他にも、ロシアには男性形が-skiiで終わる形容詞系形の姓があるが、ロシア語では形容詞も名詞の性に合わせて変化するので女性形(-skaya)が存在する。

 ポーランドとチェコにも語尾が男女で異なる姓が存在する。チェコでは基本的に、女性の姓は男性形の姓に-ova を付ける。形容詞の姓の場合、男性形の語尾の-yが、女性形では-aに変化する。ポーランド人の姓のうち、男性形が-ski、-ckiの物は、女性形では-ska、-ckaに変化する。

 ロシア人やウクライナ人といった東スラブ人など、旧ソビエト連邦構成国出身者の名前の仕組みにおける他の大きな特徴は、氏名の他に「父称」を名前の一部とすることである。父称とは、インド・ヨーロッパ語族にみられるパトロニミックス1の一種で、「○○の息子/娘」という意味を持つ。相手に敬意を表す時は、名前+父称で呼ぶことになっており、公的文書には「氏名父称」の順で記載する。

 例えば、プーチン大統領の本名は「ウラジーミル・ウラジ―ミロヴィチ・プーチン」であるが、父称にあたるのは「ウラジ―ミロヴィチ」である。プーチン大統領を公的な場面で呼ぶ時は、「ウラジーミル・ウラジ―ミロヴィチ」になる。

脚注
1.patronymicとは、a name that is based on the given name (= the name given at birth) of someone’s father or one of their father’s ancestors (Cambridge Dictionaryより)すなわち「誕生時に、父親あるいは父祖の名を元にして付けられる名前」のこと。

参考文献
岩井哲士朗・三井レナータ『ニューエクスプレス ポーランド語』(白水社、2013)p.23
中井和夫『ウクライナ語入門』(大学書林、平成19年)p.9
沼田恭子 他『大学のロシア語Ⅰ 基礎力養成テスト』(東京外国語大学出版会、2014)p.37
森安達也「人名」 川端香男里・他編『ロシア・ソ連を知る事典』(平凡社、1989年) pp.286〜287
保川亜矢子『ニューエクスプレス チェコ語』(白水社、2014)p.27

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