編集方針

分断の時代、選択的接触、エコーチェンバー、フィルター バブル。そんな言葉を聞いたことがあるでしょうか。私たちは自然と自分にとって好ましい、自分と近い感覚の情報を集め、信念を強化すると言われています。新聞やSNSなど、政治的思想は選択的に接触することが可能であり、裏を返せば自分と異なる意見を聞く機会は少なくなるとも言われます。

この話が本格的に話題になったのは、2016年のアメリカの大統領選挙でしょうか。多くのリベラルはヒラリー・クリントンの勝利を予想する中、勝者はドナルド・トランプでした。この衝撃は、決して敗北によるものではありません。むしろ「敗北を想像できなかったこと」こそが、その衝撃の本質でしょう。

同じ意見、近い意見を持った人たちと一緒にいる方が気楽です。しかしながら、この社会には多様な意見を持った人たちが暮らしています。自分たちの考えがドミナント(主流、支配的)だと考え、それ以外の考えは間違っていたり劣っていると考えることは、他者への想像力を失った状態です。

実際、日本でも、TwitterなどのSNSでは異なる意見を持った集団や個人に対して加害的な応酬が頻繁に行われていました。これを受けて、私は「四角い世界を丸くする」というメディアを立ち上げました。社会課題、課題の中にある論点、論点に対する様々な意見を整理・共有することが目的でした。

その取り組みを続ける中で、わかったことがありました。それは、私の力不足もありますが、論点の整理や主張の整合性を検証することには、対立を和らげる機能があまり無いということです。結局、お互いの主張や意見を聞いたところで、他者への想像力が養われたり回復するわけではありませんでした。

では、どうすれば私たちは他者への想像力をもう一度取り戻し、異なる他者と対話をすることができるでしょうか。私は長い間それについて考えてきましたが、いまひとつの仮説を持っています。それは、意見や主張の背景にある、その人の物語を共有することです。

理解できない、異常な、よくわからない人として否定しあうのではなく、むしろどのような経験が、その意見や主張を生じせしめたのかを尋ねることから始めたいと思うのです。「なぜこんな考えを持つのだ、それは間違っている!」という姿勢ではなく、「なぜそのように考えたのだろう。この人はどんな経験をしてきたのだろう?」という姿勢で、様々な対立を捉え直したいのです。

同性愛者を非難する人、出生前診断を肯定する人、外国人への生活保護に反対する人、いきすぎたフェミニズムを攻撃する人、天皇制を廃そうとする人、公人の靖国参拝に賛成する人、育休・産休制度を進めたい人、様々な人たちの「声」を取り上げ、その主張や意見以上に、その物語を尋ねる旅をしていきます。

多声性のある場を目指して

Poli-Phoni 編集長
えいなか(@EiNaka_poliphon